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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 中国「税徴収管理危害の刑事事件における法律適用の若干問題に関する司法解釈」

中国「税徴収管理危害の刑事事件における法律適用の若干問題に関する司法解釈」

 2024-06-27122

中国「刑法」には、当局の税徴収管理を害する行為として計14の罪名が規定されている(脱税罪、輸出還付税騙取罪、インボイス虚偽発行罪など)※1

これらの構成要件の認定と量刑基準の統一を図るため、2002年、最高人民法院及び最高人民検察院(以下「両高」という)は、「輸出還付刑事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔200230号、以下「30号法釈」という)や「脱税抗税刑事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔200233号、以下「33号法釈」といい、30号法釈と併せて「旧法釈」という)などの司法解釈を制定した。

もっとも、近年、越境Eコマース、ライブコマースなど新しいビジネスモデルの台頭に伴い、税徴収管理に旧法釈の制定当時に想定されていなかった新しい問題が生じている。かかる変化に対応するため、2024315日、両高は「税徴収管理危害の刑事事件における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔20244号、以下「新法釈」という)を公表した。新法釈は、2024320日に施行され、旧法釈は同日廃止された。

新法釈は合計22条からなり、構成要件、量刑の前提となる金額の基準など刑法の適用に関する重要なルールを定めている。本稿では、脱税罪、未納税金追徴逃避罪、輸出還付税騙取罪に関する新法釈の内容を簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は新法釈の当該条文を指すものとする。

脱税罪についての法解釈

刑法第201条では、納税者が詐欺又は隠蔽手段を講じ、虚偽の納税申告を行い、又は申告せず、脱税金額が比較的大きくかつ納めるべき税額の10%以上を占めた場合、脱税罪に該当する旨が定められている。また、脱税金額が巨額でかつ納めるべき税額の30%以上を占めた場合、より重い法定刑が科されることになる。新法釈では、下線部分に該当する行為の内容や金額の基準が明らかにされた。

まず、「詐欺又は隠蔽手段」については、「裏契約」等の方法で所得や財産を隠匿又は複数の者に分散する行為、特別付加控除※2の水増し行為、虚偽の資料を提出して税優遇措置を受ける行為、原価に係る証憑を偽造する※3行為といった典型的な行為が列挙され、構成要件に該当するか行為がより具体的に示された※4(第11項)。
 次に、「比較的大きく」「巨額」については、それぞれ脱税額が10万人民元又は50万人民元以上の場合を指すものとされ、金額の基準が示されている(第2条)。

また、「申告せず」について、設立登記を行う必要のない場合(例えば自然人)や設立登記を行っていない納税者(例えば駐在員事務所や非居住者企業)の場合は、税務当局の通知を受けたにもかかわらず、なお申告しないケースが該当する(第122号)。

なお、刑法では、脱税行為に対して、税務当局から追納通知を受けた後、納税すべき税金及び滞納金を納付し、行政処罰(一般的には罰金であることが多い)を受けた場合は、刑事責任を追及しないものとされている(刑法第2014項)※5。実務的には、税務当局の追納通知が行政処罰とともに送達され、送達日から15日以内に税金、滞納金、罰金を納めるケースが多い。この点について、新解釈では、税務当局からの追納通知がなければ、刑事責任を追及しない旨が規定されている(第32項)。

未納税金追徴逃避罪についての法解釈

刑法第203条では、納付すべき税金を納付せず、財産の移転又は隠匿の手段を講じ、それにより税務機関に未納の税金を追徴するすべを失わせ、金額1万以上である場合、未納税金追徴逃避罪に該当する旨が規定されている。

新解釈では、次の行為が財産の移転又は隠匿手段に該当するものとされており、行為の内容が具体的に明示されている(第6条)。(1)期限が到来した債権を放棄する行為、(2)財産を無償で譲渡する行為、(3)明らかに不合理な価格で取引を行う行為※6(4)財産を隠匿する行為、(5)税務徴収義務を履行せずかつ税務当局の監督管理を脱離する行為、(6)その他の手段により財産を移転又は隠匿する行為。

新法釈を前提にすると、未納税金が存する場合、仮に真実の取引行為であっても、税務犯罪に抵触する可能性があるため、注意を要する。

輸出還付税騙取罪についての解釈

刑法第204条では、輸出虚偽申告又はその他の欺罔手段により国の輸出還付税を騙取し、金額が比較的大きい場合、輸出還付税騙取罪に該当する旨が定められている。また、騙取金額が巨額又は特に巨額である場合、より重い法定刑が科されることになる。

新法釈では、次のような行為が、輸出虚偽申告又はその他の欺罔手段に該当するものとされており、行為の内容が具体的に明示されている(第713号~7号)。(1)他人の輸出業務を冒用して輸出税還を申告する行為、(2)貨物の輸出後、国内に転入し又は国外の同種貨物を国内循環輸出に転入して輸出還付を申告する行為、(3)輸出製品の機能や用途などを虚偽報告し、税金還付政策を享受しない製品を税金還付製品として申告する行為、(4)偽造や変造された売買契約、偽造や変造などの違法な手段で取得された通関単、運輸書類等を用いて輸出還付を申請する行為。

新解釈では、「比較的大きい」「巨額」「特に巨額」については、それぞれ輸出還付税額が10万人民元以上、50万人民元以上、500万人民元以上の場合を指すものとされ、金額の基準が示されている(第8条)。

おわりに

新法釈は、本稿で述べたほかに、インボイス虚偽発行などの適用基準も詳細に示している。中国では、発行事業者が税務局に申請することではじめてインボイスを入手できることから、特に増値税専用インボイスの虚偽発行が認定された場合、少額であっても犯罪行為に該当することに注意を要する。企業の法務コンプライアンス上、輸出入貿易や国内一般取引においてインボイス管理を適切に行うことも重要な事項である。

 

※1 現行刑法は、1997年の施行後12回改正されており、税徴収管理を害する行為も改正の対象となっている。例えば、2009年「刑法改正案(七)」により脱税罪が改正され、2011年「刑法改正案(八)」によりインボイス虚偽発行罪が刑法第205条の1に追加された。なお、計14の税徴収管理を害する行為のうち、4は税金に関する行為(刑法201条~204条)であり、10はインボイスに関する行為(205条~210条の1)である。

※2 中国国務院は、201812月に「個人所得税特別付加控除暫定方法」(201911日施行)を公表し、子女の教育、継続教育、重病治療、住宅ローン利子または住宅賃貸料、老人扶養など6つの特別付加控除を定めた。また、20223月に国務院「3歳以下乳幼児介護個人所得税特別付加控除の設立に関する通知」により、新たに3歳以下乳幼児介護個人所得税特別付加控除が追加されている。

※3 例えば、株式譲渡の対価が6000万元であるにもかかわらず、2000万元と記載した株式譲渡契約をもって納税申告を行った((2019)内0303刑初17号刑事判決)ケースでは、「原価に係る証憑を偽造する」(中国語「編造虚偽計税依拠」である)行為に該当すると認定されている。

※4 税徴収管理法第63条及び33号法釈では、納税者が「帳簿、記帳証憑を偽造、変造、隠匿、無断で廃棄する行為」、「支出を虚偽に増加し、又は収入を記入せず若しくは過少記入する行為」、「税務機関から申告通知を受けたにもかかわらず納税申告を拒否する行為」、「虚偽の納税申告を行うこと又は虚偽輸出申告その他の詐欺手段で納付した税金を騙し取る行為」が示されていた。

※5 ただし、当該規定は、5年以内に脱税で刑事責任を受け、又は税務機関から2回以上行政処罰を受けた者については適用できない(刑法第2014項ただし書)。

※6 「『民法典』契約編通則適用の若干問題に関する解釈」(法釈【202313号)第42条によれば、譲渡価格が取引時の取引地における市場取引価格又は指導価格の70%未満の場合は「明らかに不合理な低価格」に該当し、30%超の場合は「明らかに不合理な高価格」に該当するものとされている。


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